巻頭言:主任司祭 晴佐久昌英「ここヤシ キャンプ」

ここヤシ キャンプ

主任司祭 晴佐久 昌英

 半年前から準備してきた「ここヤシ キャンプ」も、無事終わりました。
 正式名称は、「こころのいやしのための青年キャンプ」で、精神的な病気、障がいなど、心に様々な問題を抱えて苦しんでいる青年たちに、良い環境ですごし、良い仲間と出会い、良い知らせ「福音」に触れてもらいたいと願って始めたキャンプです。
 司祭として日ごろ相談を受けている若者たちの中には、統合失調や定型うつ、新型うつ、パニック障がいや発達障がい、その他さまざまな生きづらい現実を抱えている人がいます。特に近年、身近にそのような若者があまりにも増えてきたので、これはきっと摂理であろうと、この仲間たちとキャンプをやりたいと思い立ったのでした。

 それもこれも、昨年、そのようなことをするために合宿所を建てたからです。
 合宿所の場所は、奄美大島の南に位置する加計呂麻(カケロマ)島で、十数年来無人島キャンプのベースキャンプとしてお世話になっている海宿の隣接地です。美しい海に面している上、周囲は奄美の森に囲まれており、自分たちのほかだれも住んでいないという絶好のロケーションに恵まれています。朝夕、だれもいない浜を散歩しているだけでも、こころが安らぐのを感じます。
 合宿所の海側にはハンモックがつるしてあり、今回の人気スポットでした。ハンモックでの昼寝ほど気持ちのいい時間はありません。日ごろの緊張から解放されるひと時です。また、前の浜から鉄橋の桟橋が伸びているのですが、その先の30畳ほどのフロートの上ものんびりすごすのに絶好の場所です。釣り好きのメンバーがここで次々と魚を釣ってくれたので、焼いたり揚げたりして頂きました。カワハギの刺身は美味しかった!
 敷地が600坪あるので、今回は広場にゴールネットと得点掲示板を用意して、フットサルをやりました。みんな熱中して相当盛り上がったのですが、全員すぐにバテてしまいました。もっとも、汗をかいて海に飛び込むのは気持ちいいものです。また、内海で波が穏やかなので、風を切るシーカヤックも涼しくて気持ちがいい。二人乗りのカヤックが3艘あるので、来年はぜひレースをやりたいと思っています。
 寝具は20組あり、もちろんトイレも簡単なシャワーもあります。ご自慢は、冷蔵庫が2つ並んだ広いキッチンと、ステージのある音楽スタジオ。スタジオには、ギターやキーボードはもちろん、マイクにアンプ、PAとスピーカー、ドラムセットまでそろってます。今年は、キャンプの参加者に手伝ってもらって、ステージの天井に照明用のトラスを組みました。これでライブもできるようになり、これからが楽しみです。今年もさっそく、音楽好きのメンバーがステージでミニライブを楽しんでいました。
 昨年秋には、そのスタジオから庭に向けて、ウッドデッキで16畳ほどの屋根付きテラスを作ったので、このテラスをステージにした屋外ライブもできるようになりました。昨秋はさっそく、海宿のお祭りを開き、有名な女性歌手UA(ウーア)が来てこのステージで歌ってくれました。テラスは風通しも良くて過ごしやすく、今回は結局、三食ともそのテラスで食べることになりました。
 今年は、ともかく食事だけは美味しいものを出そう、いろいろ不満はあってもおいしい食事があれば心は穏やかになるからと、友人のシェフを呼んで、3食作ってもらいました。パリのユネスコ大使公邸シェフもしていた彼は、自分の東京のお店を休業にして来てくれたのです。おかげで、何から何までおいしかった。テラスで、みんなでゆったりと食事をしていると、本当に天国にいるような気持ちになったのです。
 そうして、なんと言っても、毎日午後5時に始まるいやしのミサ。弱い仲間たちが、つらい現実の中で、しかしだからこそ主はともにおられると信じて捧げるミサは、まさに天国の始まりでした。このキャンプによって、確信はますます深まりました。神の国は、弱く小さな私たちの間にある、と。一人の参加者のことばが忘れられません。
 「こんなぼくでもいいんだって思えました」

 そのうちに、敷地内に小さな聖堂を建てるつもりです。もう設計も固まっています。
 ただ、この敷地は現在借地なので、契約の5年内には敷地をそっくり買い取る必要が出てきます。もっとも、ひと坪1万円もしないので、なんとかなるでしょう。神のみ心に適っているなら、必要なものは必ず与えられますから。
 この悪い世の中に、小さな天国を、確かにひとつ生み出すって、ステキでしょ?